« 1: 森と洞窟のコラージュ | メイン | 3: そろそろ日本の家(第一回) »
2: 都市型環境共生住宅の実戦
▲ はじめに
環境共生住宅という言葉もだいぶ認知されてきた。しかし、今だ本物の自然のきびしさや煩わしさを知らず、観念的なあこがれにとどまっている人も多いし、悪化した都市環境の改善がなされなければ、都市型エコロジーライフなど成立しないというイメージをもっている人はさらに多いに違いない。しかし一方で、都市の住人、あるいは都市そのものこそが豊かな環境への改善を期待しているはずで、それを少しでも進める為には、都市の中で環境共生的な熱環境が快適に実現することが示されていなければならない。
現在行われている環境共生住宅プロジェクトの多くは、住居部分を集合化し、その分余白を多く残し、共有の外部環境を残したり再構築する手法がとられている。しかし、このやり方で都市の宅地の全てを再構成することができるわけではない。
多くの戸建住人は、もっとずっとフレキシブルで自由かつスピーディな立場にあることに注目しなければならない。彼らの変化のほこ先が、閉鎖型の省エネルギー住宅に向くか、開放型環境パッシブ住宅に向くかは、都市環境の今後ゆくえに大きく影響するし、それよりも居住者の本質的な人間性の進化の方向にまで変化を与える可能性がある。
本稿のねらいはまず、都市環境の悪いイメ—ジを払拭して、都市型密集地の戸建 住宅でも外部環境をパッシブに利用することができ、その結果得られる室内熱環は、むしろ郊外型の環境共生住宅にまさる場合が多いという事実を知って頂く事である。 さらに、そのような密集環境をパッシブに利用するのに必要な基本的視点を紹介してみようと思う。
▲都市型環境共生住宅という考え方
環境共生住宅は、外部環境に対してパッシブである。機械設備で室内を一定環境に保ち、発生したエントロピーを外部に捨てるという今までのやり方ではなく、外部環境のきびしい部分をやわらげて導入するしくみが工夫されている。したがって、当然内部は外部に大きく依存しているわけである。
そうなると、環境共生住宅は郊外の自然にあふれた場所にしか造れないと感じる人がでてきても不思議ではない。我々は、どうも都市環境を悪いイメージで、そして郊外の自然環境を羨望の目で見すぎる傾向にあるようだ。
しかし、空気の清浄度という点を除けば、住居内熱環境のパッシブな構築は都市のほうがやりやすいのである。それはなぜか?
冬の厳しい寒さは都市気候で緩和されているし、夏の直射日光も周囲の人工物が遮へいしてくれているケースが多いからである。つまり、密集すること自体は自然の厳しい部分の緩和に役立っており、その結果住居内熱環境にはプラスに働いているのである。
このことは、戸建密集地の住宅が、隣棟間に残されたわずかなスペースをうまく利用し共有しながら、開放的な熱環境制御を行える可能性を示唆している。このように、密集した都市の住宅環境をパッシブに活用するためには、従来の自然対応のパッシブ設計手法に加えて、新たなる視点と工夫を加える必要がある。

▲都市型パッシブ設計のポイント
1)周辺人工物を熱源とみる
従来の環境共生型パッシブ手法は、太陽の直接光や風、そして周囲の地形や樹木の利用に重点をおいていた。外部環境利用にとって、樹木の持つ清涼感や清浄機能は魅力的である。建物の開口部を落葉植物で覆って夏の遮光をしたり、建物そのものを緑化して遮熱を図ったりする事例はますます増えてくるだろう。
しかし、都市の密集環境においては、遮熱は周辺人工物が効率的に行っていることが多く、南、西面に立ちはだかる大きな建物は夏の室内環境にとっては相当有利に働いている。また反面、北側の大きな熱容量をもつ建物が、たっぷり日中の太陽熱を吸収すれば、夕方以降も輻射熱の影響を受けることもある。
このように密集環境における周辺人工物は、しばしば意図的に施された緑化等よりも大きな遮熱効果を生みだす反面、太陽以外のものを対象とした遮熱・遮光を考慮しなければならない煩わしさを生みだす場合もある。
周辺人工物の中で特に利用すべきものは、斜面地や山の手地区に多い崖や擁壁等の地盤接地型の構造物である。このような構造物に隣接する土地は、そこの地盤と一体となったその構造物の安定した輻射熱が利用できる。
敷地に隣接する擁壁等はできるだけ日射から保護し、緑化するなどして熱吸収や放射過冷却を避けるようにすれば安定熱源として利用することができる。

都市の密集地において、このような擁壁わきや崖地の下に建つような家は、擁壁との間の安定した輻射環境を利用することができる。
2)隣棟空間の熱的利用と採風利用
大きな熱容量を持つ周辺構造物と建物の間の空間は、輻射環境としても空気熱環境としても、温度の変動幅が少なく安定している。
また路地状の空間になっている為、風の道として利用することができる。不安定に拡散しない一方向に流れる風をとりこめば、大変効率が良い訳である。このように、密集環境の利点をうまく使うことを考えると都市の新しい環境ポテンシャルが見えてくるのである。

遮光・遮熱された路地空間が南北方向にとれれば、そこは夏の風の通り道となり、このような採風窓や地窓から効果的に涼風を取り込むことができる。都市の密集地には、このような場所を多く見つけることができる。
3) 排熱窓と垂直風洞
周辺人工物を熱源と見て、ゆがめられた自然環境をポジティブに利用することの可能性が大きいことは既に述べた。これに加えてもう一つの可能性は天空にある。ここでも郊外の澄み渡った空と都会の汚れた空というようなイメージの対比はあるが、夏の冷却大気の導入口、そして日中の排熱と重力換気通風効果を高めることが、夏の環境パッシブにとって大変重要なことである。
天空への放射冷却効果は、郊外に比べ都会のほうが明らかに劣ったものになろうが、建物の高さを利用した垂直風洞(吹抜)と、排熱窓の組合せで、かなり夏の暑さを緩和することができる。都市型住居はその密集性から高層化する傾向があるが、高層であればあるほど垂直風洞は換気通風装置としての能力が増してくる。従来のように各階で建物を分断せずに垂直な空気の動線を組み込んでやることが大切なのである。

夏の室内環境にとって、建物のもつ通風性能は大変重要である。建物内部にできるだけ高い垂直風洞と排熱窓があると、パッシブに通風を生みだす環境装置となるし、夜間冷却の促進にも役立つのである。
4)高機能開口部
日本型パッシブ設計では、西側の開口部は扱いが難しいとされる。実際、高断熱高気密住宅で不用意に西面に大きな開口部をとると、横なぐりの日射進入で室内は相当暑くなる。そこで西面の開口部をできるだけ小さくしたり、外部格子や外部ブラインドを設置したり、植物を利用した遮光が試みられている。
しかし、郊外の広い敷地の一軒屋ならともかくとして、都市の密集地では西面だけに採光を頼らざるをえないような場所も多いのである。夏の遮光に外部ルーバーや植物を利用しても、実はメンテナンスが大変で、2階窓の外部ルーバーの調整やクリーニング、あるいは、伸びほうだいに伸びてくる植物の剪定作業や給水など、めんどうな作業がでてくる。
このような作業は生活の上で楽しみだと考えられる人ばかりではないのが現状であるから、もっと気楽に室内側で簡単に制御できる高性能な開口部が工夫されねばならない。既存の部品を使いながらも採風、遮熱、遮光が段階的に簡単にコントロールできるような開口部を工夫することは、都市型環境共生住宅に特に求められていることである。

西面に積極的にとられた採風、遮熱窓。既製品サッシを使いながらも建築的に高機能化し、西側開口部の夏の問題の改善を計っている。<篠原の家 98,12>
5)地盤熱容量の取り込み
地盤の安定した温度と熱容量を室内側に取り入れると、室内の気温変動幅が小さくなる。この性質は建物内部の熱容量が大きいほど顕著となるが、従来型の木造住宅は、ほとんど熱容量をもっていない。したがって外気温の変動に大きく依存した熱環境になるのである。
大きな熱容量をもった建物は、その温度変動の中央値として基本体温のようなものをもっている。この基本体温が室内の輻射熱環境を支配している。夏も冬も周囲の日射遮へい環境によってこの基本体温に差がでる。気温変化の1℃〜2℃はたいしたことないが、建物の基本体温は、小さな変動の中央値だけにその1℃は大変重要である。したがって、夏は夜間の冷却で熱のリリースを心がけ、基本体温の上昇をくい止めなければならないし、冬はダイレクトゲインを最大限に取り込み、日が陰ったらできる限り熱を外に逃がさない工夫をして、基本体温の低下を防ぐことが大切となる。
このように建物に住んでいる人は普段の生活で室内気温が「あと1℃高ければ」「あと1℃低ければ」と感じるケースが多い。だからこそこの1℃に大きく影響する周囲のわずかな微気候をとらえることに大きな意味があるのである。

地盤の熱容量を室内側に取り込んだ接地型住居の内部。床はセッキ質のタイルの土間空間となっている。冬は深夜電力を利用し蓄熱し、不足分の熱を補うこともできる。
▲おわりに
いつの時代からか建築の内部環境を設備にまかせるようになってから、建築の内部が外部と切り離され、建物のデザインがフリーになった。これは、ある場所の建物が世界中どこにおかれても成立するということである。こんな中で建築家はデザインのよりどころを形態や表層の形あそびにおいているように見える。
このような状況の中、せっかくの欧米のパッシブ設計技術が、日本においては太陽熱の給湯利用やOMソーラー住宅といったアクティブ利用に偏重してしまったのは、日本の住宅の性能があまりにもおそまつで、パッシブ設計による効果を実現することができなかったからである。
しかし近年、極寒冷地に採用されていた建物躯体の高性能化の技術が広まってくるにつれ、安定した室内熱環境がパッシブ設計によってかなり効果的に実現できるようになってきた。
昔からの日本家屋の設計原論的視点に加えて、近年導入された様々な環境共生技術との融合を計って、美しい四季を持つ日本の自然環境を十分に享受することのできる日本型環境共生住宅のプロトタイプを生みだすことができるに違いない。これこそ伝統の進化というものに他ならず、新しい時代の本物の和風の姿につながるものだと思う。
