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4: そろそろ日本の家(第二回)

▲未来和風の様式

1) 四季のリズムを反映する家

さて、前章で和風の持つ3つのタイプの大きな幻想について述べました。そんな幻想に縛られることなく現代的かつ本質的な日本の家を発想してみましょう。

新しい和風の成立を際だたせる為には、我々日本人自身がまずその生活に日本的なる四季観を取り戻すことが必要です。それには現代社会の消費構造と価値観そのものを変える必要があります。

しかし、これにはまだまだ多くの時間を要します。現代の日本社会が抱える多くの問題に関しては、我々人間が自然の一部であることを忘れ、本来の人間性を喪失していることにその根本原因があります。和風が喪失してしまうような社会基盤に、そもそも人間性の復活はあり得ません。このことに気づいてきた多くの人々を建築の側から支援できるような家造りの方向性を、これからの和風建築は持っていなければなりません。いわば、歪められた現代日本人の精神を矯正する役割を担っているのです。

四季のリズムを住人の心に映し出す家は、必然的にその場所の環境と共生した存在です。つまり未来和風の様式とは、まさに日本型環境共生建築そのものの姿と言い変えることができます。「環境共生」という21世紀の強力な指針は、和風が過去の幻想から解き放たれて大きく飛び立ち、生まれ変わるのに必要な大きな力を与えてくれるに違いないのです。


2)日本型パッシブ設計

それでは四季のリズムを反映する家とはいったいどんな家なのでしょう。

夏暑く、冬寒い家?エアコンがなく我慢を強いられる家?否、それでは単に昔の状態に戻しただけです。我々はすでに夏の暑さや冬の寒さを克服し、一年中一定に暑さ寒さに惑わされない家を造ることに成功しています。これを元に戻すだけでは誰も納得しないでしょう。

実はこの問題に強力な答えを出してくれるのがパッシブ設計という古くて新しい手法なのです。パッシブ設計とは太陽の熱や風の導入、空気の比重や温度差、圧力差を利用した換気効果、地盤の熱容量といったものをうまく使って建物の内部環境を自然の力で自立的に調整しようするものです。

そのためには建物の存在する場所のマクロな気候のみならず、周辺の人工物や樹木等の作り出す微気候を分析し、それを積極的に利用します。そして自らが建物外部の敷地内余白部分に、新たに微気候を作り出す工夫をすることさえ必要になってきます。周辺環境を緑によって整えたり、遮熱してクーリングゾーンを作り出したり、風の道をデザインしたりしながら必要外部環境を設計し、これを室内環境とリンクさせて効果を高めるという非常に高度かつ微妙な設計手法なのです。

このような周辺環境と建物自体のパッシブな設計が上手に行われれば、夏冬の気候の厳しい部分は程良くカットされエアコンなしでも十分生活できる環境を作り出すことができます。エアコン制御の家は外部の環境状態とは無関係に大量のエネルギーを消費し、室内を力で制御してしまいますから、不自然に大きな温度差が生じ、人や建物の健康にも悪影響を与えます。

これからの時代は大きなエネルギーを使ってパワーで制御するのではなく、自然の力を利用して優しく柔らかくコントロールしてゆくような省エネ、ローインパクト技術の利用にその方向性を変えてゆくべきなのです。


3)高断熱高気密和風??

近代以降ずっと続いてきた建築の設備至上主義はここに来て少し変わり始めています。エアコン等の設備関係の技術開発から、高性能な壁体材料や開口部部品のような建物躯体の基本性能を向上させる材料の開発へとその重点が変わってきました。現在急速に普及している高断熱高気密技術もその一つです。

たしかにこの技術のおかげで建物の基本性能が飛躍的に向上し、パッシブ設計の効果を高めることができるようになりました。実は今まで日本にパッシブ設計が根付かなかったのは日本の伝統家屋に基本性能が不足していたからです。

熱的にざる状態の日本の家では大量にエネルギーを使ってパワーでコントロールするしか方法がなかったのです。昨今の高断熱高気密技術による基本性能の向上で、日本の気候でもパッシブ設計の効果が得られるようになりました。しかし現在の高断熱高気密技術の普及はあくまでも基本性能革命の初期の第一歩だと思います。ようやく必要性能のスペックを考えるようになってきたと言うことにすぎません。

躯体の高性能化の技術はまだまだ発展途上ですからこれからもいろいろな材料や部品が開発或いは改良されてくるでしょう。現段階ではまだ材料のトータルエネルギーコストとスペックの間には多くの矛盾がありますし、工法的にも成熟しているとはいえません。

しかし、このような形で建物躯体の基本性能が向上し、パッシブ設計の効果が出るようになれば環境共生型和風住宅の普及にますます拍車がかかってくるでしょう。パッシブを支える基本技術としての高断熱高気密技術は必要不可欠な技術ですが、これから長い時間をかけてじっくりと育ててゆかねばならない物だと思います。


4)風通しという基本

日本の環境共生住宅を考えるとき最も重要なのが通風設計です。蒸し暑い夏をエアコン無しに乗りきるには、風の取り込みとパッシブ効果で空気移動を生じさせるような空間を構成することが基本となります。【解説:夏の通風システム】

もともと日本の民家は暑い夏をむねとし開放的につくられていました。その方向性は、これからの日本の家に受け継がれるべき指針だと思います。なぜなら冬の寒さは、躯体性能の改善と共に適切なパッシブ設計が為されれば、ほとんど問題なく解決できるようになってきたからです。

やはり問題は高温多湿な夏なのです。

冷房するのではなく涼房を作り出すようなパッシブ設計を行うにはかなり高度な技術が必要になります。ポイントは建物に垂直、水平風洞を組み込むことにあります。この結果できる開放的な重層空間は、伝統民家の平面的な解放空間構成の進化した形と見ることができます


5)タタミの解放

前章で、権威や格式或いは様式としての和風の幻想についてお話ししました。例えば畳を例に挙げてみましょう。

畳は単なる床材のひとつであるという見方をすれば、たいへん便利で利用価値の高い物です。しかしいつも長押や床の間がセットになっていると、かわいそうに畳はどうも自立的に発展する機会を失っているのです。

畳も本来は日本のオリジナルなものではなく、大陸から伝来したものだそうですが(日本にオリジナルなものはほとんどないそうです)それでも今までこれだけ普及してきたのですから日本人は相当畳好きなのかもしれません。部屋の中に靴を履いたままで入る欧米の生活では採用しづらい床材ですから、外国人がタタミの部屋に羨望の目を向けるのはわかるような気がします。日本人は家の中では靴を脱ぎ裸足で生活します。このライフスタイルが変わらない限り,タタミはこれからも使用され続けるに違いありません。

ところで畳といえば和室、和室といえば床の間という人は相変わらず多いのですが、あなたの家にほんとに床の間なんて必要なんですか?あなたはその床の間で何をしようとしているのですか?何を期待しているのですか?そのことを確認する必要があります。

もしかしたら、あなたもあの和風の幻想にとらわれているだけなのかもしれません。たとえば居間の一部をタタミのコーナーにして座敷のファミリースペースを作ってみたらどうでしょう。我々日本人は、大好きなタタミをそろそろ格式から切り離し、新しい目で新しい使い方をしてゆきたいものです。


6)玄関の見直し

形式といえば、和風における玄関のあり方には、かなり問題点がありそうです。客を迎え入れる為、或いは主人を送り出すための昔からの独立した玄関スペースは、現代の生活において必要があるのか考え直してみなければなりません。客といっても親しい人たちがほとんどで、昔のように儀礼を尽くすしつらえなど、ほとんどの家では必要なくなっているのです。親しい人たちの出入りと家族の出入りに限定すれば、あのようにかしこまった玄関や、その続きとしての玄関ホールなど必要ないのです。

狭い家の中であれだけスペースを取っているのですから、どこかに合併するか吸収するかして再編成する必要があります。どんなに家が洋風化しても靴脱ぎ場としてのたたきを持つ玄関という形態だけはずっと守り続けている日本の家です。

靴を脱ぐというライフスタイルは日本の風土にあったものなのですが、このことと現在の形式化した玄関は必ずしもマッチしているとはいえないのです。


7)土間床の復活

新しい和風を求めるとき、生活の機能の面からも環境に共生したパッシブ性能の確保の点からも、土間床を復活させることを提案したいと思います。土間といっても昔の民家の土をたたき固めた土間ではなく室内空間としての土間床です。材質的には珪藻土やモルタル等で仕上げても良いし、タイルを貼ってもかまいません。

床のランクとしては、玄関土間よりも上だけど、一般の床よりは下のランク、丁度縁側くらいの地位にある床でしょうか。床下をもたない土間の床というのは、建物の足廻りの湿気や腐朽の問題を解決しますし、何よりも建物内部の熱容量の確保という点で、最も都合がよいのです。

従来の和風建築はほとんど熱容量を持っていませんでしたから、外気温の影響を大きく受けていました。未来和風の建物は室内に熱容量を確保することで、暖まりにくくさめにくい安定した熱環境を作るパッシブ性能が付加されるべきなのです。一階はすべてプラットフォーム状に土間で仕上げられ、その一部に畳がおかれているなんていうのは、かなり未来和風のイメージです。湿気を工法的にシャットアウトして大きな室内熱容量を土間に持たせることで、夏涼しく冬も暖かい安定した輻射熱空間が作りやすくなるのです。


8)垂直な縁側

外部環境の整えが環境共生住宅の室内環境コントロールには必要だといいましたが、言葉を換えると内と外の境界領域の活性ということです。内と外との境界領域というのは昔の家の縁側のようなスペースです。しかし、あのような形の縁側は現代の都市型住宅では意味のないものです。

近隣や外部労働空間との接点としての昔の役割から現代では熱環境制御にその意味をシフトしてきています。したがって私は縁側は垂直に立てて使うべきだと思っているのです。それは平面としての縁側でなく断面としての縁側(つまり吹抜の一種)です。この縦の縁側を利用してパッシブ通風や排熱効果を起こしたり、冬の日射を室内奥まで入れてダイクトゲインを得ることができるようになるわけです。

これは通風設計における垂直風洞とも言い換えることができます。建物の熱環境制御装置としてはとても重要な役割を担います。 【解説:冬の暖房システム】


9)和風を支えるエコエネルギー

かつての日本の民家というと、ほとんど木と土をはじめとする自然素材で造られていました。良質な木材と土に恵まれている日本ではそのような生産風土が自然に成立し、成熟してゆきました。この過程で大工技能や左官の技術が文化的価値を形成するレベルにまで発展してきたわけです。

地場の木を伐採し、大工が木取りをして材を加工し家を造るというエコロジカルなプロセスは現在では全く変化しました。スケールメリットの追求による大量生産方式は、実は大量にエネルギーが浪費されています。遠方からさまざまな輸送手段で現場に運び込まれる流通過程でもまた大きなエネルギーを消費し環境破壊を行っているのです。

その一方、現場では労働力を削減する方向で合理化されたおかげで、貧しくこまぎれの組み立て作業のみが残されています。そこにはかつてのあのすばらしい技能や知恵、創造力を発揮する余地は残っていません。人間的労働の本質をすっかり失った、俗に3K労働と呼ばれる現状になっています。

これからのエコロジー社会においてはまず人間労働の価値や意義を取り戻してゆく必要があります。人間の労働力は無尽理に再生産可能なエコロジカルなエネルギーです。そしてまた、労働の本質は頭と手を最大限に使った創造的行為です。これは本来大きな楽しみと喜びを当事者にもたらすものなのです。

のような本質的労働で作り出されていたのが本来の和風建築でした。現在でも和風建築が何となく高級に感じるのは、そこに投入された人的エネルギーの量と質の高さを垣間見るからです。工業化住宅の対極にあるのが和風住宅だというイメージはまさにこの部分に由来しているのです。

こう考えると未来和風の建築生産現場には、是非ともかつての様に大工をはじめとする各職人が生き生きと働いているシーンを再現しなければなりません。そのような生産社会の仕組みを現在に求めてゆかねばならないのです。大工・左官をはじめとする職人、そして材料を提供する大元の林業家、あるいは建築家の中にも、そのような伝統型生産方法の再編を企てる動きがあります。

今こそ、たとえば産直共協同組合方式による適切規模のスケールメリットの下に、生産システムを再構築する事が必要です。未来和風の様式をふたたび大量生産型の商品にしてはならないのです。


10)和風外観に木は不要

ところで自然素材のみで建築を造ることが現在の都市環境下で可能なのでしょうか。

住居建築は住むための器といわれた時代から第2の衣服といわれる時代に変化してきました。住居はそれだけ住人の身体的健康と精神的健全性に直接に関わる物だという認識が強くなってきたのです。

住居という人間の着る大きな服はその身体側(つまり室内側)に関しては人間に近い生物材料としての地場の自然素材が用いられるべきでしょう。

しかし外部についてはどうでしょう。昔の和風建築のように外部にも木を露出して造ってゆくことは、すでにほとんどの地域で法規上許されてません。あのような建築は法規の適用外の場所にしか造ることができないのです。

人口の大部分が集中する都市住宅地域に建築不可能な和風のモデルなど提案しても意味がありません。低くおさえられ、長く突き出た軒、真壁造りの落ち着いた陰影のある外観といったイメージの中の和風はあまりにも都市環境となじまないものになっているのです。もう私たちの記憶の中にある、あの和風の外観のイメージはきっぱりと捨て去った方がよいのです。未来和風は外観イメージで発想する建物ではないのです。簡素でシンプルな建物に四季のリズムを反映した大きな和の本質が内在した建物なのです。

木材を主体にした自然素材と技能労働で実現されていた日本建築は生産・維持・廃棄のすべてのプロセスにおいて地球環境に対するインパクトが小さいものでした。このことは未来和風の建築が受け継ぐべく最も大切な遺産だと思います。

我々日本人は未来和風の様式がエコロジー社会成立の過程で確実に評価され定着していく為にも、都市で成立する日本型環境共生住宅をもっと成熟した物に育ててゆかねばならないのだと思います。

(終わり 月刊ニューハウス 6月号掲載)
 
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