住宅建築ラボ

« 伝統技能と現代技術 | メイン | 【第2回】 尺・結核 »

【第1回】 射撃・大学

建築家で杉坂建築事務所の創業者である杉坂智男と、杉坂の最後の弟子で、現在の杉坂建築事務所設計部部長である建築家・落合俊也が、「杉坂」の原点を語り合いました。連載コラム風に掲載していきます。お楽しみください。


「射撃」

落合 所長は射撃が趣味でしたよね。凄い腕前だとうかがったことがあります。警察学校で教えてらっしゃったり。インドで虎を撃ったとか。

杉坂 豹だね。虎は撃てなかった。

落合 野生の豹はたくさんいるわけですか?

杉坂 いや、そんなにたくさんはいないよ。インドはマハラジャがいるでしょ。自分の領地内に豹がいて、人が食われようが何だろうが、村人は絶対殺しちゃいけないということになっている。マハラジャはそれを外国人に撃たせてお金を稼ぐ。だから契約をしていけば必ず見つけられる。だけどそれを一発で撃たなかったら大変なことになるんだよね。ケガさせて逃げられたら殺すまで責任がある。だから帰れないですよ。帰ろうと思ったらプロハンターに莫大な金を払うことになる。必ず仕留めてくれって。

落合 自分で見つけて、自分で撃つんですか?

杉坂 いや、プロハンターが一緒。豹の場合はジープに乗って、夕方と明け方、薄暗いときに、ヘッドライトを外したクルマで探すんですよ。すると、ジャングルの中で豹の眼がキラリと光る。

落合 外したらどうなるんですか? 襲われます?

杉坂 うかつにそばには行けばね。夕方撃っても、暗くなって危ないから、その日は引き上げて翌朝探しに行くんだ。そのときだけはプロハンターが散弾銃で守ってくれる。

落合 それは所長がおいくつぐらいのときにやってたんですか?

杉坂 三十代から五十歳くらい。シベリアに行ったのが四十歳くらい。まだ「戦後」だったね。日本人が銃持って、シベリア、ロシアに入ったのは戦後初めてだったらしい。

落合 この別荘(対談は八ヶ岳にある杉坂氏の別荘で行われた)には獲物の剥製がたくさん飾ってあるんだけども、こういう場所じゃないと飾れないですよね。

杉坂 そのためにこの部屋がある(笑)。

落合 ここは最近増築したんですよね。

杉坂 そうだね。当初の計画には盛り込めなかったんだ。でも、どうしてもこういうスペースが欲しくなったから増築した。夢にカタチを合わせて変えられるのは、木造軸組の利点だね。

落合 ほかにも所長が設計して建てた別荘が、この近くにあると聞きました。

杉坂 うん。三軒あるね。


「大学」

落合 所長と先日話した時に「そろそろ引退する」なんて言ってましたけど、まだまだ事務所に関わって欲しいと思うんです。今、杉坂建築事務所のホームページを充実させようとしているので、所長の言葉を通じて、事務所の歴史を整理できないかと考えたんです。

杉坂 なるほどね。

落合 例えば、所長のレイモンド建築事務所(杉坂氏が師事した建築家。アントニン・レイモンド氏が日本で開いていた設計事務所)時代のお話とか、事務所創設当時の話を聞いてみたいと。僕なんかは所長の一番最後の弟子ですよね。

杉坂 そうだね。

落合 では、よろしくお願いします。まず所長が建築の道に入られたきっかけから話を始めていきたいんですが。

杉坂 戦時中、僕が海軍兵学校にいたのは知ってるでしょ?

落合 はい。

杉坂 戦争に負けて、しょうがないから学校に行き直したんだけど、それまでは建築なんて考えもしていなかった。だって職業軍人になるつもりだったから。親父は職業軍人で戦艦長門の艦長なんてのもやってたし、兄貴も職業軍人だし。兄貴は戦死しましたけど。

落合 長門の艦長…、すごい…。

杉坂 子供の頃から軍人になるものだと信じてたからね。ところが戦争に負けて、どこか学校行かなきゃしょうがないから旧制高校受けて入って。昔は旧制高校入るとほとんど国立大学行けたんだよね。まあ、僕らの頃は試験が結構難しくなってたけど。それで、東大に行って、工学部というのは決めてたけど、建築とは決めてなかった。工学部の中で一番遊べそうなのが建築かなと。電気とか色々あったけど、勉強が面倒そうだった。建築なら多少遊んでてもいんじゃないかなと思って選んだだけなんだ(笑)。

落合 いや、まさに歴史を感じる話ですね。

杉坂 丹下健三さんが教授でいた時代だよ。

落合 へえ、じゃあ教えも受けたってことですか?

杉坂 うん。彼の講義は面白かった。他の講義はまともに出なかったけど、丹下さんのは面白いからちゃんと出た。


プロフィール

杉坂智男
すぎさか ともお●大正15年、東京生まれ。昭和31(1956)年に杉坂建築事務所を創業。東京大学工学部建築学科を卒業後、昭和28年から建築家のアントニン・レイモンド氏に師事。おもな作品に加茂ゴルフ倶楽部クラブハウス、青少年の森センターなどがある。東京建築士会受賞。林野庁長官賞などを受賞。

落合俊也
おちあい としや●昭和34年、東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、同大学院修了。昭和60年、杉坂建築事務所に入社。現・株式会社杉坂建築事務所取締役設計部長。都市型環境共生住宅を提唱し、ロハスな住宅建築に取り組んでいる。建築・環境省エネルギー住宅賞などを受賞。
木の凄い家・本舗

 
COPYRIGHT (c) 2006 株式会社 杉坂建築事務所 ALL RIGHTS RESERVED