地域を繋ぎ文化を紡ぐ板張り町家<< 30坪以下の住宅>>

歴史ある土地で文化を守りたい


千葉県松戸市は旧く江戸川を活用した舟運の中継地点であり、宿場町(松戸宿)として栄えました。
この住まいはその松戸市内を江戸川河畔へと通ずる水戸街道沿いに建ちます。
建て主は代々この地に住み継がれた方で、旧家らしい広い敷地には築100年になる古民家と蔵が存在していました。
ですがそれらはもう何十年も使われないままとなっており、近年隣接して新築した住居で生活が完結していました。
今回、計画を決心されたのは暫く離れて暮らしていた長女のIさん。
「交通の要衝だった歴史ある場所で、風情ある佇まいを覗かせる旧建物をそのまま廃らせてしまうのは勿体ない」
今は違う分野で活動されていますが、過去に建築を学んだ経験のあるIさんは思いを募らせていました。
時を経てご両親の生活を支える為ご家族で松戸に戻る事となったのを機に、私共へご相談いただいたのが始まりでした。

敷地内に小さな街並みをデザイン

「地域コミュニティの活性化に役立て、様々な人と交わり支え合う場所にしたい。」
ご相談いただいた際、Iさんの中では古民家を地域の中で活用したいとする考えが既に固まっていた様です。
現代社会において格差や核家族化などに起因する子供達の食育にも注目しておられ、地域の中でそういった問題に貢献する活動や環境の拠点となる事にも想いを寄せておられました。
とても大きな発想です。
私たちはその考えに力を添えさせていただき、古民家と蔵の再生・活用を目指すこととなりました。

古民家と蔵というと色々な距離感で佇む姿を目にします。
今回は歴史を重ねた2棟がやや離れて建つ感じが印象的でした。
そこで活用に際してはこの距離感を利用することに。
回遊性を持たせながら建物外へも場を広げて行く事に話が及びました。
そして敷地全体を“村”に見立て、小さな街並みをつくる様にデザインする事が決定したのです。
訪れた人達に、路地を抜けその先の何かを想像する高揚感/期待感も与えたいとする考えです。
(>>引き続き古民家改修については“コチラ”をご覧下さい。)
その街並みに今回加えられた新しい住まい。
ここでは、これから新たな歴史を創り出す「板張り町家(Iさんご家族の住まい)」をご紹介します。

新しい住まいの計画にあたって居住性や快適性を考慮するのは当然です。
ただしここまでの経緯でもお伝えした様に、ここではまず古民家/蔵とそれらを包む敷地全体の中で以下の考え方が重視されました。
・古い建物が持つ本物の質感や佇まいに合うこと。
・地域社会の中で古民家を役立て活用したいと願う施主の意向に沿った配置計画であること。
ここでは全体の調和というコンセプトの中、職人の技が活きる“素材の豊かさ”を表現して行きました。

[キッチン]

  • キッチンから玄関土間を経て屋外まで見通し良く、小規模な住まいの中で広がりを感じる間取りがポイントです。高度な断熱性能とオリジナルの冷暖房設備の採用により、連続感のある住まいながら夏・冬の暑さ寒さを感じさせない住まいとなっています。

[水廻り]

  • 水廻りには機能性や清掃性に配慮した設備や素材を選び、質感を持たせながら現代的な生活における使いやすさにも配慮しました。

[2階]

  • 2階ならではの梁組みを表した寝室。実は床の隅に1階と繋がる通気スリットが設けられています。夏・冬にこの部分を熱が流通する事で温度差が緩和され、快適と省エネを両立させる仕組みです。

凝らされた職人の技と素材

当然ですが昔の古民家や蔵には地場の自然素材がふんだんに用いられており、職人達の技や遊び心が随所に発揮されています。
この住まいも風景としての統一感を大切にするため、旧建物と呼応する自然な素材感を大切にしました。
コミュニティイベントで集まる子供たちに、普段なかなか触れることの出来ない日本の職人技術を感じてもらえる様、特別な左官仕上げも採用しています。
ここでこの住まいに特別に採用した仕上げや仕様を紹介します。

■焼き杉板の外壁

  • 古民家、蔵ともに板壁の外壁が採用されており、統一感ある連続性を持たせるため、杉板をバーナーで炙った焼き杉を採用しました。
    表面の炭化層が耐久性を高める効果もあります。

■土塗りの外壁

  • 庇がかかる玄関周りの外壁を左官仕上げとしました。左官は杉坂が昔から得意とする技術。今回は職人に腕を振るってもらい、さざ波の様なオリジナルテクスチャを表現しました。光の加減でゆらぎます。

■国産杉の玄関ドア

  • 国産木材(西川杉・桧の組合せ)で製作した玄関ドア。独特の暖かみがあります。真中の桧部分にちょうなでナグリ仕上げが施されています。年月と共に変化する風合いも楽しめます。

■ペレット/薪両用のストーブ

  • ペレット/薪両方が使える国産ストーブ。電源を必用とせず、非常時の調理や採暖にも役立ちます。暮らしの中に火の揺らぎを眺める楽しみも加わり、オーガニックで楽しみのある生活を実現しました。

地域の人達が集まる場となるため、この住まいには“災害時の基地”という役割も想定しました。
前出の電気を必用としないストーブもその機能一端で、古くからあった井戸も再整備しました。
更に住宅の屋根には将来的に太陽光パネルを取り付けられる様、採光条件が効果的となる勾配としています。

これから古民家や蔵とも徐々に馴染み、地域の拠点として新たな歴史を紡いで行く事を応援したいと思います。

動画でご覧ください。

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