そろそろ日本の家【04】

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三 自然素材と技能労働

もうひとつ、和の家に対する大きな幻想があります。それは建物自身に関わることなのですが、和風素材と呼ばれるいわゆる木と土という伝統素材とその料理法に対する、思いが生みだす問題です。

日本には現在、木と土という自然素材を技能者の知恵と創造力、そして大きな労働エネルギーを投入してつくり込んでいく、伝統的な生産様式がほとんど残っていません。さらに都市の運営維持に不可欠なルールや建築基準法などの法的規制が、伝統型の和風建築を拒絶する姿勢をとっています。このような現状の中、苦労して問題をクリアしながら昔のやり方にこだわるべきなのでしょうか。あるいはまた表面だけの和風を模倣することで、まあ良しとするべきなのでしょうか。このあたりのジレンマがまた、和風の幻想を生み出しているのです。

このように多くの幻想に囲まれていては、和風のあるべき姿など簡単には把握できません。幻想に幻想を重ね、フワフワと意味もなく浮遊しているのが現代和風のおかれた現状です。

最近でこそ変化が見られてきましたが、ある時期までは毎朝、新聞の折り込み広告にあるマンションや建て売り住宅の間取りをみると、かならずひとつ和室がついていました。その和室はいったいどのように使われていたのでしょう。生活のイメージがまったく見えませんでした。日本人の家にはとりあえず和室がひとつなければならないと皆が思いこんでいたのだと思います。

この「とりあえず和室」は和風の、非常に表面的で安っぽい切り売りであり、それが何の疑問も持たれずに世の中に蔓延していたのです。日本人がこの和風の幻想にすっかり惑わされ、考えること自体を放棄していたと言っても過言ではありません。

多様性が生まれていると言われる現在でも基本的な構造は同じで、本質的な住まいについてのイメージがつかめず、マーケット戦略によって生みだされた画一的な住宅を選ぶという図式が構築されています。

家までが商品の様に大量消費されてしまうと、そこで生活する人たちにとって和風の本質はさらに風化してゆくに違いありません。

(『未来和風の様式』へつづく)

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